日本では外国人労働者は原則として禁止されています。技能実習生は建前上、労働者ではなくあくまで「実習生」です。
しかし深刻な人手不足を解消するために宿泊業、建設、農業、介護、造船、その他外食産業などを含めて14職種で単純労働を含めた就労を認める在留資格を創設していく動きがあり、来年2019年4月から施行予定となっています。
今月の臨時国会で審議される予定で、概要については下記のリンクのような資料や、メディアからの噂話程度のものは出てきているものの、実際に受け入れをする人たちや我々のような実務を行う可能性のある者に参考になるような具体的なものはあまりありません。
新たな外国人材の受入れに関する在留資格「特定技能」の創設について
http://www.moj.go.jp/content/001288931.pdf
そこで、ベトナムで技能実習生などの送り出しの仕事をしていて、ホテル業ともご縁のある私が、メディアからの情報と、全旅連様がまずはベトナムからと言っているベトナム現地の状況から想像してみたいと思います。
特定技能「宿泊業」対応可能な仕事範囲
単純労働を含む労働者というのが特定技能の特徴ですので、ホテルや旅館に必要なほぼすべての業務に関われるのではないかと思っています。しかし国としてもまずは5業種とか言っているように、すべてと認めてしまうと後々のトラブルなども想定していると思いますので、行うことのできる業務の範囲はこれくらいという縛りは出てくるかもしれません。
技能実習では掃除以外させることができずに十分な労働時間を確保できずに使えないとか、せっかく人がいるのに忙しい宴会の手伝いとかもやってもらえないなどと使いづらさはあったと思います。就労ビザは高度なスキルを持った人がそのスキルを活かせる職場でないといけないため、単純労働ができないので、ベトナム人だったらベトナム人の宿泊客の多いホテルで通訳を含むフロント業務やベトナムでの営業など語学力や専門能力が活かせないと在留資格がおりないのも使いづらいものでしたので、特定技能でその使いづらさが解消されることを望んでいます。
想定される対象人材は?
建設や農業のような他の職種は技能実習生2号修了者または試験に合格した者ということなので、主に技能実習生で3年間同じ職種の仕事をしたことがある人が対象のようです。ただ、技能実習を3年間終了した人が最大でもう2年間延長できるのですが、ベトナム人で延長を希望する人は少ないです。結婚して子供もいるのに離れ離れで日本に来ている人も多いですし、若い人だったら結婚、出産、両親の世話など外国人にも人生のいろいろなイベントがあります。日本語を一生懸命勉強した人なら、ベトナムでも良い仕事につけて給料も上がっていくため日本で最低賃金あたりで働くよりも生活費が安いために良い生活ができ貯金もできるからです。特定技能に進もうとする人も家族も帯同できないなど厳しい条件があるので、職種にもよりますがやはり希望者は少ないのではと感じます。そのため、技能実習に行っていない人を特定技能として募集し、日本語を教育し、専門の試験を合格させるようにトレーニングさせることになるでしょう。
宿泊業の場合は、技能実習制度がありませんので、募集した人をN4程度になるのかわかりませんが、特定の日本語レベルになるまで教育し、一般社団法人宿泊業技能試験センターが作るといわれているテストに合格しなければならないことが想定されています。この試験もまだどういう頻度でどこで受験できるのか、試験の中身とかも明らかでありません。
一般社団法人宿泊業技能試験センターとは、日本旅館協会、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)、日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟(JCHA)の4団体が、外国人の雇用体制の整備のため共同で設立したものでえす。
日本語のレベルは日本語検定の4級以上ではないかと考えていますが、「宿泊業は他の業界に比べて特に高い日本語能力が必要」と3級や2級を条件にしてしまうと介護のようにほとんど誰も来ない状況になってしまいます。今回の在留資格は「単純労働」だと割り切って、高度な日本語能力を必要とするフロントなどで活躍してもらうことを考えないで掃除や食事の準備などをしてもらうか、業務自体を高度な日本語がいらないくらいに単純化してしまう必要があると考えます。
考えられる候補者はどういう人達で、日本語のレベルは?
送り出し機関として想定している候補者は下記の3種類です。
・技能実習生と同じように地方から高卒くらいの学歴の人を募集し、ゼロから日本語を教え、技能テストに合格させられるよう教育する。この候補者が一番多くなると考えています。
・元留学生で日本語がN3くらいでベトナムではあまり高い給料の仕事につけず、もう一度日本に行きたいという人たち。日本語学校を出ただけでは日本では就職ができず、専門学校を出て「専門士」の資格をとった人の多くも日本での就職を試みますが、入社面接や試験に合格しても専門と仕事内容が合っていなく在留資格が得られず帰国している人も多いため、この層も候補にはなると考えています。
・他の業種での技能実習生修了者。こういった方々が技能試験センターのテストに合格すると別の職種でも特定技能で日本に行けるかどうかはまだわかりませんが、行けるのであればこちらも可能性としてはあると思います。ただ、そこそこ優秀な技能実習生修了者でもう一度日本で数年間働きたいという人はあまりいません。ベトナムに帰ってきても良い仕事につけないような人たちになるでしょう。
・大学や短大の観光学科の卒業生。こういった人たちはだいたい英語ができて、マレーシアやシンガポールやヨーロッパとかにも仕事に行けるようなので、難しい日本語を勉強して日本に行きたいという人がどれくらいいるかわかりませんが、スキルアップとかのために行きたいと考える人はいると思います。ホテルをやりたくてホテルマネジメントなどを勉強しているので、ホテルの仕事に一番情熱を持っていてプロ意識も高い層だと思います。日本語はできないので、0からの勉強になる場合がほとんどでしょう。
・大学の日本語学科の卒業生。全旅連が想定している層がこの層で、そのためベトナムのいろいろな大学と業務提携したようです。しかしニュースによると想定している給料は最低賃金なので、こういった優秀な大学を出たような人はベトナムにいても日本の最低賃金以上の収入があり、副業もして生活費も安いため、給料もより低くて生活レベルも下げて暮らす必要のあるやり方で日本に行く人がどれくらいいるかは疑問です。優秀なハノイ大学では卒業生の半数は日本の他の業種に就労ビザの正社員として入社するそうなので、正社員であれば20万円前後の給料なので、最低賃金のホテルへの希望者は本当に少ないのではと思います。
まとめますと、日本語能力的にはできる順から
1.日本語学科卒業
2.元留学生
3.元技能実習生
4.観光学科卒業(英語はできる人が多い)
5.地方からの候補者
という順になります。元留学生は日本でコンビニや外食でアルバイト経験もあるので、フロントだとしても仕事に馴染みやすいと思います。
ただ、募集できる人数の多い順にすると
1.地方からの候補者
2.元留学生、元技能実習生、
3.日本語学科、観光学科
の順になっていくと思います。希少な大卒の人たち、特に日本語学科の卒業生たちのニーズが大きく、全旅連さん関連のニュースなどを読んでこういう人たちを想定してしまうと、かなり採用は厳しいかと思います。ニュース通り最低賃金で検討されているならば、選択肢の広い日本語学科の卒業生は他の業種で通訳や正社員としてより条件の良いところに行くでしょうし、それでもホテル業界を選んだとしても、最低賃金の高い東京でしかも有名なホテルに一極集中することが考えられます。時給が700円台の地方や海外であまり知られていないようなホテルですと、ほぼ可能性はないと言ってもよいと思います。時給が700円台の地方は最低賃金ですと、日本語学科などの大卒はもちろんのこと、日本語を0から身に着ける技能実習生と同じ層からの採用でも難しく、無理に募集したとしてもその後のトラブルの原因となっていくと考えられます。
日本側は制度を作れば日本は賃金が高くて人気なので大挙して来てくれるに違いないと思いがちですが、日本の賃金はタイやマレーシア、台湾や韓国とくらべてあまり高くなく、先進国の中では一番低いといわれていて、賃金としての魅力はありません。また、ベトナムは「新日」といわれていますが、日本人がフランスも好き、イタリアも好き、台湾もよくわからないけどフィジーとかブータンも好きで人それぞれなのと同じように、ベトナムは親日であることは間違いないですが、それ以上に韓国の影響を受けていますし、タイも好き、台湾も好き、アメリカもドイツもオーストラリアも好きで、その中で日本にだけ特別な感情を持っているわけではありません。
特に今の若いベトナム人には国内外で様々な機会があり、日本行きだけが唯一の成り上がりの道ではありません。そういった国際的な人材獲得競争の中、日本でもこの特定技能で14職種も認められるとなれば、やはり業界同士での争奪は避けられないでしょう。
サポート制度について
技能実習の場合は、日本側の監理団体を通して企業が受け入れをしてきました。監理団体自体がいろいろな問題の原因になっているところもあり、監理団体の方々は海外ビジネスや労務のプロというわけではありません。それでもしっかりと仕事をしている監理団体がいるからこそ、問題はありつつもまだ制度がしっかりと運用されているのだと感じています。
技術・人文・国際業務の在留資格で企業が直接外国人を採用した場合、サポートしてくれる監理団体のような存在がないと事前の業務内容や雇用条件などを明確にしなかったり、外国人にとってわかりずらいまま進めてしまったりなどトラブルは多いです。
そのため外国人の採用に慣れている大企業ならともかく、一般の中小企業にとってはせっかくお金と労力をかけて採用した外国人とすぐにトラブルになって転職や失踪、通報などされ、それが原因になって処罰されることなども考えられます。
そのため、個人的には制度の仕組みとしては直接採用ではなく、監理団体のような位置づけで人材紹介会社などがサポートとして絡むことを期待しています。
弊社としても、企業様への直接の送り出しはベトナムからなので満足なサポートができずトラブルの原因となりますので、必ず信頼できる日本の人材紹介会社などと一緒にサポートすることを条件に送り出しをしていくことになると考えています。